キーキャップの素材と音の違い — 軸・素材で打鍵音はどう変わる?
メカニカルキーボードの話をしていると、「コトコト系」「カチャカチャ系」という言い方をよく耳にします。英語圏ではそれぞれthock(ソック)、clack(クラック)と呼ばれます。どちらも正式な用語ではなく、境目もあいまいです。それでも、音を決める要素を知っておくと、キーボード選びや打鍵音動画の楽しみ方がぐっと変わります。
コトコト(thock)とカチャカチャ(clack)
コトコト系(thock)は、低く丸く、少しこもった音を指すことが多い言葉です。木のブロックをやわらかいバチで叩いたような音をイメージしてください。
カチャカチャ系(clack)は、明るく高めで、輪郭のはっきりした音。硬いものにキーが当たる、プラスチックらしい「カチャッ」という響きです。
どちらが優れているわけではありません。落ち着くと感じる人もいれば、軽快で気持ちいいと感じる人もいます。同じスイッチでも、組み合わせ次第でコトコトにもカチャカチャにもなります。大事なのは、音はスイッチだけでなくキーボード全体で決まるということです。
1. スイッチ(軸)の種類
日本では、スイッチの軸の色から「赤軸」「茶軸」「青軸」と呼ぶのが一般的です。大きく三つのタイプに分けられます。
リニア(赤軸など)
引っかかりがなく、まっすぐ沈むタイプです。音の大部分は、軸が底に当たる「底打ち」と、指を離して上に戻るときの音から生まれます。代表はCherry MX Red(赤軸)。余計な機構がないぶん、コトコト系を目指す人の出発点になりやすいタイプです。
タクタイル(茶軸など)
押し込む途中に、指で感じられる小さな段差(クリック感のない引っかかり)があるタイプです。代表はCherry MX Brown(茶軸)で、段差は比較的軽め。Cherry MX Clear(クリア軸)は茶軸より重く、段差もはっきりしています。段差そのものの音は小さく、音の中心はやはり底打ちですが、押す力が変わることで鳴り方も変わります。
クリッキー(青軸など)
押したときに「カチッ」というクリック音を出す専用の機構を持つタイプです。代表はCherry MX Blue(青軸)。三つの中ではいちばん大きく高い音で、そっと押してもクリック音は鳴ります。気持ちいい反面、オフィスや夜の部屋では気を遣う音でもあります。
このほか、ストロークが短く筐体の薄いロープロファイルスイッチもあり、薄型キーボードに使われます。同じタイプのフルサイズのスイッチと比べると、軽く静かめの音になる傾向があります。
2. キーキャップ:素材・厚み・形
キーキャップは指が触れる部分で、太鼓の胴のような役割も果たします。
- ABS:なめらかな手触りの一般的なプラスチック。やや高めでカチャカチャ寄りの音と言われることが多く、使い込むとテカリが出やすい素材です。
- PBT:さらっとした質感で、比較的硬く、テカリにくい素材。少し低く落ち着いた音と表現されることが多いです。
- 厚み:素材と同じくらい大切です。肉厚なほど低くしっかりした音に、薄いほど軽く明るい音になりやすくなります。
- プロファイル(形と高さ):キーキャップ内部の空間の大きさが変わります。背の高いプロファイルは低めの音になりやすいと言われます。
いずれも「傾向」であって絶対ではありません。肉厚のABSが薄いPBTより低く鳴ることもあります。
3. プレート・ケース・マウント
スイッチはふつうプレートに固定され、そのプレートがケースに収まっています。どちらも響きます。
- プレートの素材:アルミや真鍮などの硬い金属は明るく鋭い音に、ポリカーボネートやPOMなどやわらかめの素材はこもった低めの音になりやすいとされます。
- ケース:中が空洞だと反響しやすく、吸音フォームを入れると響きが抑えられてコトコト寄りになるのが一般的です。
- マウント方式:プレートのケースへの固定方法(やわらかいガスケットで支える「ガスケットマウント」など)によって、振動の伝わり方や打ち心地が変わります。
4. 潤滑・スプリング・スタビライザー
スイッチを潤滑すると、こすれる音やスプリングの「キーン」という残響が減り、なめらかで少し低めの音になるのが一般的です。スペースキーなど大きなキーのスタビライザーはカタカタ鳴りやすく、ここを調整するだけで印象が大きく変わることもあります。
5. 机と、マイク
同じキーボードでも、木の机に直置きするのとデスクマットを敷くのとでは音が変わります。さらに動画で聴く打鍵音には、マイクの種類や位置、編集での音作りも含まれています。同じスイッチでも動画によって印象がまったく違うのはそのためです。
ざっくりまとめ
- コトコト寄り:肉厚・PBTのキーキャップ、やわらかめのプレート、ケース内の吸音材、潤滑したリニア/タクタイル軸、デスクマット。
- カチャカチャ寄り:薄い・ABSのキーキャップ、金属プレート、空洞のケース、無潤滑の軸、硬い机。
- いちばん高く大きい:構成にかかわらず、クリッキー(青軸など)。
何台も買わずに聴き比べる
Keycap Labでは、素材ごとに本物のメカニカルキーボードの録音が鳴るので、違う音を並べて押し比べられます。録音したスイッチがわかっている素材は次のとおりです。
- Ice — Cherry MX Blue(青軸・クリッキー):明るく鋭い音。
- Candy — Cherry MX Clear:重めのタクタイル。
- Slate — Cherry MX Brown(茶軸):定番の軽いタクタイル。
- Felt — Gateron Brownロープロファイル(Keychron K7 Proで録音)。
- Glass — Hako Violet。
パッドにIceとSlateを並べて交互に押してみると、クリッキーとタクタイルの違いが数回でわかります。無料・広告なし・オフラインで使えます。iPhoneで打鍵音を楽しむ方法は打鍵音ASMRアプリの選び方でも紹介しています。